社会人大学院での博士学位取得

なぜ、社会人で学位を取ろうと思ったのか?

 私は入社直後に情報システム部門に配属されました。希望通りではあったのですが、当時はまだ会社のことをよく理解していませんでした。 その後、研究所に異動し、OSの研究をしたいと思うようになりました。そして、周囲の理解もあり、何年後かに研究所に異動することができました。 研究所に異動してみると、非常に頭の良い人達ばかりで、かつ、入社当初から、「研究とは何か?」ということを基本から学んでいました。 私は皆に負けないように一生懸命勉強をして、実力では引けを取らないようになることができました。 しかし、実力は追いついても、「自分は研究所育ちではないインチキ研究者だ」という劣等感がつきまといました。 その劣等感は、どんなに勉強しても、実力が付いても拭い去ることのできないものでした。 私は、この拭い去ることができない劣等感を克服するために、「学位を取ろう」と思うようになりました。 これが、私が、社会人で学位を取ろうと思った理由です。

どこを選ぶか?どう選ぶか?

 当時は未だ社会人で学位を取る人は少なかった頃です。正確に言えば、博士には論文博士(最近は文科省が認めていない)と課程博士がありますが、 課程博士を取る人の数は少なかったということです。そして、どこの大学で学位を取るか検討しました。その際、次の4つの条件を決めました。
 ①職場から近いこと
 ②国立大学であること
 ③自分が興味を持つ分野、専門の分野があること
 ④良い先生がいること
 ①はまず重要です。職場から近くないと長続きしません。学位を取るには、基本、3年間通わないといけないからです。 ②は学費の問題です。私立の学費は国立の学費の3倍でした。多分、今も同じでしょう。 当時、私立なら150万円/年なので学位を取るのに450万円の学費が必要でした。 一方、国立なら50万円/年なので学位を取るのに150万円ですみました。この差は家庭を持つ社会人にとっては重大です。 ③現実的な制約である①②を先にあげましたが、やはり、自分が興味を持つ分野、専門の分野でないと話になりません。まあ、それはそうでしょう。 そして、最後の決め手は、なんといっても良い先生がいるということです。この「良い先生」には色々な意味が含まれますが、 一言で言うならば、最後まで自分の面倒を見てくれそうな先生という感じです。 社会人が学位を取るのは、やはり大変です。最後は、絶対にこれが効いてきます。

それでも苦労はするもの!

 私は電気通信大学大学院情報システム学研究科の並列処理学講座を選びました。指導教官は弓場敏嗣教授(現電気通信大学名誉教授)です。 弓場教授は電総研(現産総研)時代に、平木敬先生等とデータフローマシンシグマ1の研究開発をされていて、 並列分散処理を目指す私にとっては憧れの存在でした。 最初に研究室に相談に行った際、私が学卒であることを告げると、「それでは博士課程には入れない。 博士課程に入るのならジャーナルペーパー(論文誌の論文等)を書いてからきなさい。」と言われました。 当時の私は、そんな当たり前のことも理解していないという状況でした。 ジャーナルペーパーを書いてから、再び相談に行くと、今度は具体的に相談に乗ってくれました。 そして8月に試験を受け、無事に合格しました。入学は4月だったので、それまで半年ありました。 「社会人は色々なことがあるから、なるべく前倒しで、計画的に進めていきましょう。」と、 入学前に半年間、研究室に通わせて頂き、入学までに研究テーマを具体的に詰めることができました。 お蔭で、入学後の研究活動は順調に進んでいました。しかし、「社会人は色々なことがあるから」という先生の予言通り、 2年の後半に仕事でトラブル(開発遅れ)があり、半年間、大学に通えない時期がありました。 最初は毎週のゼミに顔だけは出していたのですが、準備は皆無。見かねた先生は、 「まずトラブルを片付けて、それから再スタートしましょう」と言ってくれました。 言われた通り、大学には顔も出さず、トラブルを片付け、半年後に再スタートをきることになった私を、 先生はそれまで以上に親切丁寧に指導をしてくれました。 そんなこんなで、なんとか無事に3年間で学位を取ることができました。 「学位を取った」と書きましたが、自分一人で取った訳ではなく、先生、職場の上司・同僚、友人、家族、色々な人の助けがあって、 「なんとか学位を取らせて貰った」というのが正しい表現なのでしょう。

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